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2020年7月27日
安倍政権の検察庁法改正案のデタラメを暴く!
「検察庁法では検事総長を除く検察官の定年を63歳、総長を65歳と規定していますが、現在の稲田伸夫総長は1956年8月生まれのため、最長で来年8月まで今のポストにいられる計算になります。ただ、総長在任は2年間が相場のため、この夏までです。検察内部で従前から稲田総長の後任と目されてきた林真琴・名古屋高検検事長は1957年7月生まれなので、63歳を迎えようとするこの夏までのタイミングで“禅譲”が行われるはずだったのです。 しかし、安倍政権が政権ベッタリの黒川氏を総長に据えようと、稲田総長に退任をいくら迫っても総長がどうしても首を縦に振らなかったことから、黒川氏が63歳の定年を迎える2月8日を前に、定年延長制に基づき定年延長を決めたというわけです。しかし、検察官は定年延長制の対象外とした1981年の政府見解があると指摘されると、安倍政権は法解釈を変更したと強弁。変更の経緯が文書で残っていないと追及されると、口頭で決裁したと釈明し、ついには脱法措置を正当化させるかのように定年延長制度を盛り込んだ検察庁法改正案を国会に提出したのです」 結局、安倍総理は5月18日、自民党の二階幹事長と会談し、改正案の今国会での可決・成立を事実上見送る方針で一致した。「週刊文春」が黒川氏の緊急事態宣言下での賭けマージャンについて同17日に黒川氏を直撃したことに加え、俳優の西田敏行さんや歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんら著名人を含めインターネット上に批判の声があふれたことが大きかった。それでなくとも「アベノマスク」など新型コロナウイルスへのまずい対応で支持率が落ちていることに危機感を強めていた。そして、「週刊文春」がスクープ速報で同20日、賭けマージャンを報じたことで、黒川氏は辞任の意志を固め、同21日に辞表を提出したという顛末だ。「花の35期」本来のエースは若くして病に……「『花の35期』と呼ばれた司法修習35期の黒川、林の両氏について、当初から2人が検事総長の有力候補としてシノギを削っていたといった報道が一部でありますが、それは事実ではありません。確かに35期にはほかにも、東京地検特捜部長を務めた佐久間達哉弁護士、特捜部の副部長を務め、一時は代議士も務めた若狭勝弁護士、特捜部経験がありテレビのコメンテーターなどもしている郷原信郎弁護士らタレントぞろいです。ですが、当初同期のトップと目されていた人物はほかにいました。 ただ、若くして病になり、その後、35期は法務官僚畑の『赤レンガ派』は林氏、特捜部畑の『捜査現場派』は佐久間氏と言われるようになりました。黒川氏も若い頃は特捜部で四大証券利益供与事件などの捜査に関わりましたが、ぱっとはせず、法務官僚畑の道を進むことになりました。林氏が稲田氏の後任として法務省の人事を差配する人事課長に就任した2008年1月の異動で、黒川氏は秘書課長から官房審議官に就任しています。『すでに検事総長コースに乗っていた稲田氏の後継者は林氏』という規定路線はこの時点で鮮明となっており、黒川さんが後塵を拝している印象は拭えませんでした。「黒川氏は陰で『猛獣使い』などと呼ばれていた」 ただ、この頃から黒川氏の“特異”な感性が発揮されるようになってゆきました。政治家の扱いがとてもうまいのです。法務大臣の秘書業務を担う秘書課長としては、第1次安倍内閣改造内閣で鳩山邦夫法相に、次の福田内閣でも鳩山法相に仕えました。鳩山氏は法務省が死刑執行を公表するようになって以降、当時最多となる13人の死刑執行を法相として命令してますが、その執行に先鞭をつけたのが黒川氏です。鳩山氏は法相時代に『友人の友人がアルカイダ』と問題発言をしていたため、黒川氏は陰で『猛獣使い』などと呼ばれていたのです。そのことは自民党政権内部でもよく知られていたはずです」(同前) ただ、黒川氏の本領が発揮され始めたのは、民主党政権下だったと言われている。別の法務・検察関係者が解説する。「政務を担う官房審議官として黒川氏は、言葉は悪いですが千葉景子法相を完全に“手なずける”ことに成功したのです。黒川氏は千葉法相の歓心を買うべく努め、厚い信頼を得ました。その証左が、アムネスティ議員連盟の事務局長を務めるなど人権派の弁護士として知られた千葉法相が、2人の死刑執行の命令書にサインをしたという事実です。また、黒川氏は2010年8月に松山地検検事正へ転出しましたが、なんと2カ月後の10月に法務省官房付として本省に戻されています。これは実は、大阪地検特捜部による証拠改竄事件に絡んで設置された検察の在り方検討会議の座長に、法相を退任したばかりの千葉氏が指名されたことを受けて、検討会議の事務局は黒川氏に任せたいと千葉氏たっての希望があったからなのです。ようするに黒川氏は、類い希なる『政治家たらし』なのです。それが現在の安倍政権内でも、いかんなく発揮されてきたということなのです」「週刊文春」の2016年1月28日号がスクープした、当時の甘利明経済再生担当相と公設秘書が建設業者から口利きの見返りに現金を受け取りながら政治資金収支報告書に記載していなかった問題では、甘利氏の大臣辞任後にあっせん利得処罰法違反容疑で2人は東京地検特捜部に刑事告発されたが、不起訴となるなど、黒川氏の“暗躍”が噂された「政治とカネ」の疑惑も少なくない。林氏の前に割り込ませる形で黒川氏を次官に「あっせん利得処罰法はもともと適用しづらい法体系になっているので、暗躍はあくまでも噂でしょう。ただ、安倍官邸が2016年に林氏の前に割り込ませる形で黒川氏を事務次官に据え、さらに黒川氏を次官に留任させるために林氏を名古屋高検検事長に追いやったのは、政治家案件で行われる検察首脳会議に出席できる事務次官に黒川氏を留まらせ、森友学園と加計学園をめぐる問題で重しとなることを期待したからだと思います。捜査を止めることはできませんが、次官ポストに安倍官邸の“代理人”がいることで現場にはプレッシャーとなるうえに、官邸側としても黒川氏を通じて検察側の思惑を知ることができるからです。黒川氏はその役割を十分に果たしたのです」(同前) 検察ナンバー2のポストは安倍政権が最も窮地に立たされたモリカケ問題を無事乗り切ることができたことへの論功行賞というわけだ。だが、安倍政権に新たな疑惑が発覚する。桜を見る会の問題だ。そしてこの問題は昨年末の国会閉会段階でも収束せず、越年となったことで、今年2月8日に黒川氏を定年退官させるわけにはいかなくなってしまったというわけである。
未熟で無理筋な政権運営を見破る!
反対世論の急速な高まりや検事総長経験者をはじめとした検察OBの反発に政権側が抗しきれなかった形だが、法案の内容そのものが元々無理筋だったということだ。 政府、与党は批判をしのぐための先送りで国民の目をごまかすのではなく、改正案の内容を根底から再考すべきだ。 検察官の定年を延長する自民党の二階俊博幹事長との会談で、国民の理解なしに前に進めることはできないと確認した。 改正案は、現行63歳の検察官の定年を検察トップの検事総長と同じ65歳とする。 検事長らに63歳で役職を降りる「役職定年制」を導入する一方、内閣や法相が認めれば最長66歳まで定年を延長できる特例規定を盛った。検事総長は最長68歳まで留任できる。 問題視されたのは、時の政権の都合で検察首脳らの定年延長が可能になるこの特例だ。野党は、政権が恣意(しい)的に運用すれば「検察官の中立性を損なう」と主張してきた。 政府は1月末、黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する異例の閣議決定をし、政権に近いとされる黒川氏を次期検事総長に充てるためと疑念を呼んだ。 野党は改正案を巡り、黒川氏の定年延長の「後付け」などと厳しく批判している。 一連の動きを通して際立ったのは、国民の懸念を置き去りにし、自己都合優先で事を進めようとする政権の姿勢だ。 黒川氏の定年延長を巡る森雅子法相の国会答弁は迷走を重ねた。森法相は先週の衆院内閣委員会でも、改正案の特例が想定される要件を「現時点で具体的に全て示すのは困難」とし、明示できなかった。 森法相の答弁に先立ち、安倍首相は国会で「恣意的な人事が行われるといった懸念は全く当たらない」と述べていたが、要件が定まっていない中で、なぜそう約束できるのか。 検察庁法改正案を国家公務員法改正案との「束ね法案」としたことや、法案審議で森法相の出席を渋ったことを含めて、政府、与党に誠実さはうかがえなかった。 松尾邦弘元検事総長らロッキード事件捜査に従事した検察OBらは先週、改正案反対の意見書を法務省に提出した。 18日には、元東京地検特捜部長らリクルート事件やゼネコン汚職などの政界捜査に携わった検察OBが改正案の再考を求める意見書を提出した。 検察は、厳正な独立性や中立性を基盤とした国民の信頼を背景に権力者の追及に当たってきた。OBの異例の行動は、改正案の危うさを如実に物語る。 新型コロナウイルス禍で国民が疲弊する中で、不要不急な法案成立を目指す。世論はこうした独善的な政権運営にも厳しい目を向けている。 安倍首相は自らの足元を真摯(しんし)に見つめ、感染症対策に全力を尽くさなければならない。検察と政治のあるべき距離感が分かっていない「そもそも、検察権力と政治権力のあるべき距離感が分かっていないという点で、安倍政権は民主党政権とよく似ています。検察人事に手を突っ込み、検察庁法まで改正しようとした安倍政権は、法相が検事総長に捜査の是非について指示することができると検察庁法で規定している『指揮権』の発動は、聖域ではなく、発動すべきものだと主張した民主党政権と変わりません。 歴史上唯一、法相に指揮権を発動させて逮捕を免れた佐藤栄作を大叔父に持つ安倍総理が検察権力を恐れ、コントロールしたがるのは、民主党政権の実力者だった小沢一郎氏が田中角栄と金丸信という2人の『オヤジ』を検察によって逮捕され、自身も陸山会事件で窮地に立たされたことから、検察を目の敵にしていたことと重なります。安倍総理は民主党政権を悪夢と評していますが、実は似たもの同士なのです」(同前)ロッキード事件で逮捕された田中角栄でさえ…… 東京地検特捜部でロッキード事件を手掛けた吉永祐介氏は検事総長時代の1995年7月、次期総長と目されていた根來泰周・東京高検検事長(当時)が政界に近すぎることを嫌い、総長ポストを譲らずに根來氏を63歳で定年退官させている。この定年年齢の“ラグ”は、このように検察権力と政治権力の距離感を維持することにも寄与してきた歴史的背景もあるのだ。「ロッキード事件で逮捕された田中角栄さんは、逮捕後も『今太閤』などと呼ばれ、キングメーカーとして政権の中枢で影響力を発揮していました。検察を恐れた角栄さんは田中派の政治家や『隠れ田中派』と呼ばれた自分の息がかかった他派閥の政治家を歴代法相に据えて、検察を牽制していましたが、それ以上のことは一切しませんでした。検察権力と政治権力のあるべき距離感を熟知していたからです。そういった意味でも安倍政権は未成熟で幼稚だと言えるのではないでしょうか」(同前) 検察とは「治安の両輪の関係にある」と言われる警察の最高幹部に以前、黒川氏の人物評を聞いてみたことがあるが、「能吏だと思うが、彼には正義がない」と言っていたのを思い出す。黒川問題の本質とは、正義を体現すべき検察官としての自覚に乏しく、犯罪である賭けマージャンに興じる奇異な官僚と、未熟な政権が組み合わさったことで起きた悲喜劇だったということではなかろうか